視覚に関するバリアフリーといえば色に関することが有名ですが、文字も目で見て読むものです。見え方の多様性に配慮するためには、見やすく読みやすい文字を選ぶことが欠かせません。
プレゼン資料などでは明朝体ではなくゴシック体を使いましょうということは既に述べましたが、バリアフリーの観点からは、要旨などの長い文章を書く場合にもゴシック体を使うことが推奨されます。視力が悪い人にとっては明朝体は線が細すぎて見えにくいですし、視覚過敏の人にとっては明朝体の細い部分を認識しづらかったり、縦横の線の太さの違いやはらいやハネなどが刺激となるようです。ただし、長い文章に太いゴシック体はNGです。あくまで、細めのゴシック体(游ゴシックのRegularなど)を使用するようにしましょう。
ただ、やはり明朝体がよいという場合もあると思います。そんな時にはMS明朝を使うのは避けましょう。実はMS明朝は細めの明朝体でとても見づらいため、バリアフリーの観点からオススメすることができません、游明朝などを使うようにしましょう。嬉しいことに、誰にとっても見やすく読みやすいユニバーサルデザインフォント(UDフォント)が近年数多く開発されています。読みやすいのはもちろん、遠くからでも見やすく読み間違いがないように、可読性や視認性、判読性が高くなるようにデザインされており、様々な製品や広告などで使われています。研究発表においても、一般講演会などのアウトリーチ活動などで役立ちます。機関や研究室として使用できる体制を整えておくことが推奨されます。
上の例では、左側がMacに標準搭載されている「ヒラギノ角ゴ W8」という読みやすいフォントです。しかし、右側のUDフォント(イワタUDゴシック)に比べると、濁点や半濁点が文字に接近しすぎで、場合によっては、くっついてしまいます。その結果、文字が小さいと、濁点なのか半濁点なのか、あるいは、いずれもが付いていないのか、判断できなくなります。一方、UDフォントは、小さくなっても誤読が少なく設計されていることがわかります。
UDフォントは、英数字の判読性も非常に高くなっています。上の例の左はWindowsに標準搭載のArialです。それに比べて右側のUDフォント(イワタUDゴシック)は、丸で示した部分にゆったりとスペースを取っています。そのため、文字が小さくなっても、似た形の文字(OとC、3と8)をとても区別しやすくなっています。UDフォントは有料の場合がほとんどで少々値が張りますが、もっておくと資料のクオリティがグンとアップします。
さまざまな書体メーカーからたくさんのUDフォントが販売されています。無料で使えるUDフォント(ゴシックも明朝も)も紹介しますので、お見逃しなく!!
UDフォントの中でもパイオニア的存在が「イワタUDゴシック」です。「リモコンの文字を見やすくしよう」というイワタとパナソニックの共同開発により2006年に製品化されたそうです。さておき、最近は数多くのUDフォントがリリースされています。Adobe CCを利用されている人は、Adobe TypekitのTBUDゴシックを使用することができますし、モリサワパスポートを使っている人(は少ないと思いますがアカデミック版がありオススメです。)は、新ゴUDも複数の太さを使用可能です。
このようにUDフォントはほとんどが有料なのですが、とうとう無償のユニバーサルデザインフォントが現れました!!その名もBIZ UDゴシックとBIZ UD明朝。会員登録さえすれば無料でだれでも使用することができます。時代は変わりました。 等幅とプロポーショナル版があり、欧和混植の場合はプロポーショル版を使うとよいでしょう。こういったフォントを通じて、フォントについての関心やユニバーサルデザインという考え方が広まっていくことが期待されます。
ダウンロードはこちら。MORISAWA BIZ+ 。なお、WindowsならばOSを最新版にすれば自動的にUDフォントがインストールされます!
ちなみにゴシック体の方はRegularとBoldの2ウェイトが提供されていますが、明朝体は太さが1種類です。ただ、Word書類の本文には最適なフォントなので、ぜひ使ってみて下さい。単なるWord書類でも今後ユニバーサルデザインの意識が高まる予感がします。ちなみに、明朝体の割には横線が太めに作られている印象です。このようなフォントは、ディスプレイで表示したときやプロジェクターで投映したときに横線がかすれにくいという特徴があります。ディスプレイ上では、特に効果を発揮するフォントだといえます。MORISAWA社の哲学には脱帽です。ちなみにMORISAWAは、小中高の学校教育で使用する教科書体のUDフォント「UDデジタル教科書体」もWindows 10 Fall Creators Updateで無償配布しています。
ちなみに、Windowsにも標準搭載されている「メイリオ」という書体はユニバーサルデザインを意識して作られたフォントですので、UDフォントが使用できない場合にオススメです。欧文フォントならSegoe UI(Windowsに標準搭載)やFrutiger(有償)というフォントは非常に判読性の高いフォントです。
研究発表でも丸ゴシックを好んで使用される人もいます。丸ゴシックを使うと、資料が柔らかく優しい印象になるため、難しい内容の研究発表もとっつきやすいと感じてもらうことができるかもしれません。また、視覚過敏の人にとって、角の尖っている普通のゴシック体よりも丸ゴシック体の方が読みやすいこともあり、よりバリアフリーな文字として丸ゴシックは色々な場面で使用されています。
ただし、標準搭載の丸ゴシック体のフォントはあまりオススメできないのが現状です。Windows PCのHG丸ゴシックM-PRO(やAR丸ゴシック体M)はあまり字形が美しくないですし、太さも揃っていません。Macでもヒラギノ丸ゴはW4の太さしか搭載されていないため太字を使用することができません。どうしてもインストールが必要になりますが、オススメなのは源柔ゴシックです。Noto Sans CJK JPを丸ゴシックにしたもので、フリーでウェイトも揃っています。ちなみに、UDフォントで丸ゴシック体のフォントには、TBUD丸ゴシック(Adobe type kitなどで利用可)やUD新丸ゴ(MORISAWA PASSPORTで利用可)などがあります。