日本語の文字は、「明朝体」と「ゴシック体」、「筆書体」、「デザイン書体」に大別することができます。明朝体は、横線に対して縦線が太く、横線の右端、曲り角の右肩に三角形の山(ウロコ)がある書体です。一方、ゴシック体は、横線と縦線の太さがほぼ同じで、ウロコが(ほどんど)ない書体です。筆書体は、筆で書いた文字を再現したような書体で、行書体や隷書体などが含まれます。デザイン書体は手書き風の書体やポップ体が含まれます。理由は次に述べますが、研究発表やビジネスでは、明朝体とゴシック体だけを使うのがふつうです。
欧文の書体も日本語と同様、4つのカテゴリーに大別できます。一つ目は、「セリフ体」と呼ばれ、Times New Romanに代表されるような縦線が太く、ウロコのある書体です。日本語の明朝体に対応します。二つ目は「サンセリフ体」と呼ばれ、線の太さが一様でウロコのない書体です。日本語のゴシック体に対応する書体で、ArialやHelvetica, Corbel, Calibri、Segoe UIなどが有名です。その他の2つの書体は、スクリプト体とデザイン書体です。スクリプト体は、いわゆる筆記体のような書体のことで、デザイン書体は、手書き風書体など個性的な見た目の書体の総称です。日本語の場合と同様、これら2つの書体は、プレゼン資料なで使うことはおすすめできません。
なお、一般に、書体というと「〜〜体」という文字の形の様式やその分類を表すもので、フォントというと文字の種類(製品)を表します。すなわち、MS明朝や游明朝、ヒラギノ明朝は、明朝体という書体に分類されるフォント(製品)である、という言い方をします。
変わった文字で資料を作るとたしかに目を引くことがあります。ですが、変わった書体で書かれた文章は読み間違いをも多く、内容にも集中しづらくなります。多くの人に正確に情報を伝えるときは、なによりも、癖のない文字を使うことが大切です。文字に表情がないほうが受け手は内容に集中することができるともいえます。
したがって、プレゼン資料では、手書き風の文字や飾り文字などのデザイン書体や、行書体や楷書体などの筆書体は好ましくありません。親しみやすいとか、カッコいい、かわいい、という印象ももたせることができる反面、読みにくく、読み間違えも多い書体です。もちろん、これらの書体を効果的に使うことのできる場面はたくさんありますが、科学コミュニケーションやビジネスの場ではあまり求められていません。Word書類でもPowerPoint書類でも、ゴシック体と明朝体、セリフ体、サンセリフ体のみを使うように心がけましょう。自己満足ではなく、受け手への配慮として書体を選ぶことがなによりも大切です。
レポートや企画書、報告書などの資料では、ときに、数行、数十行に及ぶ長い文章を書くことがあります。このような長い文章(読む文章)には、「細い書体」が向いています。太い文字で長い文章を書くと紙面が黒々してしまうので、可読性が下がります。目にも大きな負担がかかります。一般に、Wordで作るような書類やある程度文量の多い書類の場合には、「明朝体」を使うようにしましょう。明朝体はそれぞれの線がほっそりとしているため、読み手に負担を与えにくいといわれています。新聞や小説、論文のように長い文章で「明朝体」が使われるのはそのためです。
ただし、どんな明朝体でもよい、ということではありません。やはり線が細いことが大切ですので、太い明朝体では、可読性が下がってしまいます。長い文章には「明朝体」がベストです。標準搭載のフォントに限れば、Windowsならば游明朝、Macならばヒラギノ明朝がおすすめです。
ゴシック体が文量が多い場合に絶対に使ってはいけないというわけではありません。細めのゴシック体であれば、紙面が黒々せず、可読性は充分に高くなります。モダンな印象の文章にしたい場合は、明朝体で書くよりも細めのゴシック体で書くほうがよいかもしれません。ただし、MSゴシックは、かなり太いフォントですので、長文を書くには向いていません。
欧文(英文)も、和文と全く同じです。文量の多い英文には、「セリフ体」が適切です。サンセリフ体では、ゴシック体の場合と同様、圧迫感があり、読みづらくなります。
ただし、セリフ体ならなんでもよいというわけではありません。可読性を高めるため、細めのセリフ体を使うようにしましょう。太めのセリフ体は、読んでいて目が疲れてしまいます。
セリフ体は、明朝体と同様、真面目な印象や古典的、クラシックな印象を与えてしまいます。それで問題ない場合は長い文章にはセリフ体を使っておくのが無難です。しかし、内容との関係で、もう少しモダンな印象、未来的な印象にしたい場合は、細めのサンセリフ体も候補にしてよいでしょう。可読性を保ちつつ、モダンな印象にすることができます。
ポスターやスライドは、懇切丁寧に文章を書いて内容を説明するものではなく、一般に、要点だけを端的に説明し、プレゼンテーションの補助的な役割をするものです。したがって、これらの資料の文章は「読む」というよりは「見る」という意味合いの強い要素になります。このような文章では、可読性(読みやすさ)よりも視認性(遠くからでもしっかりと字が認識できること)が求められます。そのため、プレゼンスライドや学会発表のポスターなのでは、全体を通じて視認性の高いゴシック体やサンセリフ体を用いるのがよいでしょう。
また、画面やスクリーン上では、解像度が低いため、明朝体は読みにくくなってしまいがち(横線が細くてかすれてしまう)なので、その点でもプレゼン資料では明朝体を避けるほうが賢明です。同様の理由で、細すぎるゴシック体もプレゼン資料にはおすすめできません。
文量の多い書類では、小見出しは、概要や全体の構造を理解する上で重要な役割を果たします。したがって、小見出しを目立たせ、「視認性」を高めることで、受け手の理解を促進することができます。たとえ本文が明朝体やセリフ体であっても、「見る」要素である小見出しには、ゴシック体を用いる方が受け手に優しいデザインとなります。当然、英語の資料であれば、サンセリフ体を用いるのが基本になります。
下の図のように、小見出しをゴシック体にすると、まとまり(2つのグループの存在)をより認識しやすくなります。
タイトルは一目見て重要性や内容が把握できることが大切です。つまり、「視認性」を高める必要があります。したがって、存在感がありよく目立つゴシック体、とりわけ「太めのゴシック体」が適切です。細いゴシック体や明朝体の方がかっこいいこともありますが、ユニバーサルデザインの観点からすれば、太めのゴシック体を使うほうがよいでしょう。
明朝体で書かれた文章の中で重要な単語を強調したいとき、ゴシック体を使うと効果的です。強調箇所に「太い明朝体」を使うという方法が考えられますが、この方法ではそれほど効果的ではありません(下図参照)。また、「下線」を引くという手段もありますが、これはあまり美しくありません。一方、少し太めのゴシック体を使うと、強調箇所を美しく強調することができます。これがベストの方法というわけではないですが、一つのテクニックとして覚えておいて損はありません。
欧文書体には、「等幅書体」と「プロポーショナル書体」があります。等幅書体とは、下の例のように、すべての文字が同じ文字幅でデザインされている書体です。一方、プロポーショナル書体は、文字の形によって、文字の幅が異なります。欧文書体を使って読みやすい文を書くならば、プロポーショナル書体を使うのが鉄則です。
多くの英文書体は、プロポーショナル書体なので心配ありませんが、OCRBという書体やCourier Newという書体などは等幅書体です。これらの等幅書体で文を書くと、可読性が著しく低下します。余計なスペースが多く、文がぶつぶつに切れている印象になるからです。よほどの理由がない限り、等幅の英文書体は、避けましょう。
等幅書体とほとんど同じ理由で、英文(英単語)に、日本語の書体を使うのは避けた方がよいです。いくつかの日本語書体のアルファベットは等幅書体です(例えばMSゴシック)。また、日本語フォントに含まれるアルファベットは、美しくなく、可読性も低いです。例外はありますが、原則、英文を日本語フォントで書かない方が賢明です。
下の例は、日本語の書体で、アルファベットを表示したものです。緑色の丸で示した部分にスペースが目立ちます。極端に言えば、「Yuma Takahashi」でなく「Y uma T akahash i」のように見えます。これでは、単語が認識しづらく、結果として、可読性や視認性が低下してしまいます。
このようなことを避けるため、英単語には、英語専用の書体で書きましょう! その効果は、Calibri やAdobe Garamond で書いた下の例を見れば一目瞭然です。
大文字の場合も同じです。日本語フォントを使うと、スカスカ、バラバラになり、あまりに不格好です。
文章でも同じです。英文を書く場合は、和文フォントの明朝体やゴシック体ではなく、欧文フォントを使ったほうが圧倒的に読みやすく、美しいです。英語は欧文フォントで!