伝わるデザイン

文字組み


長い文章を書くとき、文字が小さければ読みにくいのは当たり前です。なるべく文字を大きくすることは、ユニバーサルデザインのために欠かすことができません。とはいえ、読みやすい書体を選んで、大きな文字で書けば、必ず読みやすい文章ができるわけでもありません。ちょっとしたレイアウトや文字の使い方によって、読みやすくも読みにくくもなります。ここでは、読みやすいスライド、ポスターを作るための文章のレイアウトテクニックを伝授します。具体的には、行間や字間の調整による可読性と視認性の高め方や、一行の長さの調節による可読性の高め方を説明します。

行の調整

行間を調節して読みやすく

文章を書くとき、行間の調節は非常に重要です。しかし、PowerPointなどでは、フォントの種類にもよりますが、初期設定のままでは行間が狭すぎます(PowerPointの初期設定が英語などの欧文を書くときのために最適化されているためです)。結論から言えば、フォントサイズの70%前後(0.7文字分)の行間をとるのが適当です。下の例を見ると明らかなように、行間が狭すぎたり広すぎたりすることのないように行間を設定し直しましょう。行間は一行の文字数や行数、文字サイズ、書体によって適切な量が変わってきますが、どんな時も適切な行間が存在します(一行文字数が少ない時は行間は狭めがよい、明朝体よりもゴシック体のほうが行間を広めに取ったほうがよい、など)。常に自問自答しながら、適切な行間を見つけてください。



箇条書きについては、次のページで詳しく述べますが、もちろん、箇条書きでも行間は重要です。下の例のように、行間を十分にとった方が読みやすくなります。

PowerPointでは、<書式>→<段落>→<インデントと行間>で、<行間>を<倍数>にして、<間隔>の値を変えることで、行間設定を変えることができます。初期設定のままでどれだけの行間が設けられるかは、フォントによって異なるので(メイリオやヒラギノなどの一部のフォントでは、初期設定のままでも行間がある程度適切に設けられる)、適切な<間隔>の値を一概に断言することはできません。行と行の間に、一文字分の高さよりも少し狭いくらいのスペースができるように行間を設定しましょう。

一行の文字数を多くしない

レジュメなどでは、あまり心配する必要はありませんが、スライドやポスターなどでは、一行の文字数が多すぎるのは好ましくありません。一行の字数が多いと、次に読む行を見失いやすくなりますし、大きなスクリーンに映っている場合には、目線を大きくかつ繊細に動かす必要があるので、文章を目で追うだけで疲れてしまいます。下の例のように、文字サイズやレイアウトを工夫して、一行文字数を減らすと、ずっと読みやすくなります。とはいえ、一行文字数が少なすぎても、読みやすさは低下してしまいますので、一行の文字数は読みやすさに配慮して適切に設定する必要があります。

明確な基準はありませんが、日本語の場合は、一行文字数が10文字以下になると、英語の場合は、3単語以下になると読みにくくなると思います。一行文字数で読みやすさが変わることを意識してレイアウトしましょう。

近年、多くの学会では、「A0サイズ」のポスターを使ったポスター発表が行なわれています。このような大判ポスターで、しばしば左から右に目一杯文章が書かれることがあります。しかし、これでは、文章が非常に読みにくくなってしまいます。

大きなポスターでは、右から左にぶち抜くような文章になることを避けるために、レイアウトを工夫する必要があります。たとえば、下の例のようにレイアウトを変更するとよいかもしれません。こうすれば一行文字数が長くなりすぎることはありません。講演要旨など、ある程度量のある文章を入れるときには、このような工夫が必要です。

なお、ポスターでもスライドでも言えることですが、上の例のようにたくさんの文章を書くことは、あまりよいことではありません。情報を洗練させ、文字数を減らすことが先決です。

基本は「左揃え」

基本的にセンタリングは避けましょう。センタリングを効果的に使うことができる場面はありますが(1文しかない場合や一つの図しかない場合)、センタリングを活かすには相当のテクニックが必要になります。また、センタリングは、行のスタート位置がバラバラになり、段落や文章を認識しづらくします。ですので、まずは基本の左揃えをお勧めします。相当の理由がない限り、左揃えにしましょう。

タイトルや小見出しも左揃え!

上で説明したように、人の目線は、左上から右下に動くものです。資料全体を見るときもそうですが、個々の項目の中を見るときも同じです。ですから、中央に配置された小見出しは、読み始めたときにあまり目に入ってきませんし、このような小見出しを探そうとすれば、読むリズムが崩れてしまいストレスを感じるかもしれません。小見出しは、できるだけ左上に配置した方が読む人に負担をかけずにすみます。枠が大きい場合はなおさらです。



Wordで行頭記号を揃える

Wordなどでは、行頭に記号が来るたびに行ごとに開始位置を設定するのは、やや面倒です。でも、ワードには便利な機能があります。下の画像にあるように、「段落」の設定で、「行頭の記号を1/2の幅にする」をチェックするだけ。これで、行頭記号のガタガタとはさよならです。

揃え方を揃える

ページ内の文字数が少なく、構造がシンプルであるならば、センタリングでもあまり読みにくくはなりません。例えば、プレゼン資料などの表紙ページであれば、センタリングをしても支障がない場合もあります。ですが、注意点があります。センタリングするなら、全ての要素をセンタリングしたほうがよいです。左揃えとセンタリングと右揃えが混在していると、揃っていない印象を与えます。全てをセンタリングするか、全てを左揃えにするように心がけましょう。(横書きの文を右揃えにすることは稀です)

字間

字間を調節して読みやすく

次は、字間について。文字同士が接してしまうほど近いと、とても読みにくい文章になります。また、字間を空けすぎても、読みやすくありません。字間がちょうどよくなるように調節しましょう。無闇にフォントを大きくするよりも、少し文字を小さくして字間を空けた方が、文章が読みやすくなります。字面の大きいメイリオなどは、特に字間の調節が大切です。なお、文字サイズにもよりますが、PowerPointを使う場合、字間を「広く」という設定にすると、字間が広がりすぎになることが多いです。一般的には、文字サイズの5%程度の字間を入れるとよいでしょう。文字サイズが20ptなら、字間は1ptということです。

もちろん、IllustratorにもWordにもKeynoteにも、字間を調節する機能があります。試行錯誤してみると、必ずベストな字間が見つかるはずです。

なお、欧文に関しては、字間の調節はほとんど必要ありません。ですので、PowerPointで、英単語を含む日本語の文章の字間を「広く」に設定した場合は、英単語だけ個別に字間を「標準」に戻すとよいでしょう。英単語を広くするとかえって読みにくくなります。

タイトルなどの大きな文字は字間を調整する

長い文章では、気にする必要がありませんが、「タイトル」や「小見出し」など、短い文や単語を大きな文字で示す場合、字間にはもっともっと気を配らなければなりません。下の例のように、ひらがなカタカナ(とくに促音と拗音)の連続は、漢字の連続よりも字間が空いて見えるため、調整しないとスカスカしてバランスの悪い印象を与えます。とりわけ、タイトルはパッと見たときの印象が重要です。パッと見ただけで、単語や文を認識しやすいようにすることは、ユニバーサルデザインの観点からとても重要なことです。

下の例では、「形態的特徴」という部分は文字がキツキツに詰まって見えますが、カタカナやひらがなの連続である「コイノボリの」のあたりは少しスカスカな印象を受けます。大きい文字でこういったことが起こると、可読性や視認性が低下します。はっきりとは感じませんが、読むときにストレスを感じてしまいます。このような場合、ひらがなの部分の字間を狭くする必要があります。このような字間の調節を「カーニング」といいます。PowerPointなどでは、<文字の間隔>機能で調節することができます。Illustratorであれば、<文字間のカーニング設定>で、「オプティマル」か「自動」を選択すれば簡単にできます。ただし、やや面倒な作業なので、カーニングは、かなり大きい文字や目立つ文字だけ行なえばよいでしょう。

上の残りの例も同様に、赤丸で示した部分にスペースが生じるせいで、単語がぶつ切りになってしまいます。これでは、スムーズに読むことができません。どちらの例も、カーニングによりとても読みやすくなります。タイトルや見出しでは、必要に応じてカーニングをしましょう。

記号は字間を詰めたほうがよい

記号は、文字に比べてスペースが大きいので、タイトルや文中に記号が含まれると、字間が不自然に空いているように見えます。下の例は、「ダブルクォーテーション」を使った例です。一目見て明らかですが、記号の前後に不要なスペースが生じてしまいます。この場合は、字間を調節するか半角の記号を使うことでこのスペースをなくすと、一塊の文としてすんなり読めるようになります。タイトルなどでは、記号により生じる読みにくさを解消すべきです。

Illustratorの場合は、<文字間のカーニングの設定>で「自動」か「オプティマ」を選択し、<アキを挿入>で左右ともに「ベタ」を選択すれば、自動的に記号の前後のスペースがほぼ改善されます。なお、本気で字間を調整する場合には、手動で調整しなければいけませんが、研究発表でそこまでする必要はないと思います。

次の例は、「 」を使ったタイトルの例です。この場合も、「 」の前後に余計なスペースが生じています。余計なスペースは可読性を下げる(かつ、美しくない)ので、字間を詰めるのがベターです。なお、太いカギ括弧は幾分ダサいので、この部分だけで細いフォントにしてみました。こっちのほうがスマートですね。

ナカグロ「・」も同様です。下の例のように、ナカグロの前後には大きなスペースが生じてしまいます。このようなスペースは可読性を下げますし、見栄えもよくありません。タイトルなどの大きな文字でナカグロを使う場合には、このスペースが目立たなくなるように字間を調整するのがベターです。

もう少し身近な例を挙げれば、演題の次に比較的大きな文字で書かれる「著者名リスト」があります。ここには、カッコやカンマ、ナカグロが多用されます。このような場合にも、字間を調整したほうが可読性や見栄えが向上します。ちょっとマニアック過ぎますが、「塵も積もれば山となる」です。時間に余裕があればトライしてみてください。

コラム:合字を使ってさらに読みやすく、さらに美しく

最後に、マニアックなおまけを1つ。

英文を書いていると、下の緑の丸で示した部分で、文字と文字がぶつかってしまうという問題が生じることがあります。これは、すこし不格好で、かつ、読みにくくなります。小さい文字や長い文章ならば、全く気にすることはありませんが、タイトルや大きな文字の場合は対処しましょう。対処法が、「合字を使う」です。合字とは、並ぶとぶつかってしまう「fとl」や「fとi」、「tとi」が並んだときに使う「2つで一文字」の特殊な文字のことです。合字を使えば、可読性もカッコよさも高まります。IllustratorやPowerPointならば、このような文字が並んだとき、自動的に合字が使われます。Word(少なくとも2007 for Win, 2008 for Mac 以降)の場合は、フォント設定のダイアログボックスの<詳細設定>の<文章内のすべての合字を有効にする>というチェックボックスをONにすることで、合字が使えるようになります。ただし、合字に対応していないフォントもあるので注意してください。

文字の強調と装飾

小見出しを目立たせる

「小見出し」は、文章にリズムを生み出し、文章の区切りを明確にします。また、各項目/文章の「まとめ」としての機能も果たします。したがって、小見出しを有効に活用すれば、読みやすい文章を作ることができます。小見出しを小見出しらしく目立たせるためには、日本語の文章の場合、「太字を使う」「色を変える」「サイズを変える」「書体を変える」「下線を付ける」といった方法で本文とタイトルにコントラストを付けることができます。下の例を見れば、これらの効果が一目瞭然です。ただし、3つ以上の方法を併用(太くして、書体も変えて、サイズも変えて、色も変えるなど)すると、くどくなり過ぎて、逆に読みやすさが低下することもあるのでご注意ください。

英語の文章の場合は、日本語の場合に加えて「斜体を使う」というのも有効な方法となります。3つ以上の方法を併用して目立たせようとすると、目立ちすぎて読みにくくなってしまうというのは、日本語の場合と同じです。

重要性に応じてコントラストをつける

スライドやポスターでは、文字が単調に書かれていると、聞き手はどこに注目すればよいのかわからなくなります。重要な箇所は強調し、そこに聴衆の目を誘導することで、ポスターやスライドを格段に見やすくすることができます。

ポスターやスライドでは、各項目のタイトル(小見出し)だけでなく、結論/まとめが重要になってきます。下の例のように、重要な箇所とそうでない箇所に、思い切ってコントラストを付けましょう。コントラストは、文字の「太さ」や「サイズ」、「色」を変えることにより付けることができます。

色を変えるよりも「太字」がおすすめ

「色を変える」という方法は、文字を目立たせたいときに便利な方法です。とはいえ、重要な箇所がたくさんあった場合、色を変えて目立たせていると、全体が煩雑な印象になってしまいます。まずは、色に手を出すのではなく、太字の利用を検討しましょう。太い文字を使ってコントラストを高めると、全体が散漫な印象にならずに、強調を行なうことができます。下の例のように、文字にコントラストをつけようとするときには、「太字」を使うという選択肢をつねに頭に置いておいてください。そのためにも、太字に対応した書体を選んでおく必要があります(詳細は「読みやすく」を参照)。

コントラストを使って文章の入れ子構造をなくす

文章や箇条書きの上に項目名(小見出し)をつけたとき、すぐ下の文章の位置をついつい少し右にずらしてしまうことがあります(左の図)。これは、入れ子になった内容を反映させた構造ではあって必ずしも悪いことでありません。ただし、階層が多くなると、見栄えが悪く、読みにくくなります。入れ子構造を文章の「位置」で表すのではなく、「文字の太さや大きさ」で表すことで、文の開始位置を一直線に「揃える」ことができます。コントラストをうまく利用すれば、美しく読みやすく、誤解されることのない文章が作れます。

文字を装飾し過ぎない!

最近のソフトには、文字の装飾として、影や外枠、光沢、反射など、様々な効果が用意されています。こういった効果を使うと、確かに文字を目立たせることができますが、たいていの場合、読みにくくなったりスライド全体の印象が煩雑になったりして、聞き手に様々な負担をかけてしまいます。ですので、読んでもらいたい文字や文に、ムダな装飾を施すのは避けましょう。

また、「太字を使う」「色を変える」「サイズを変える」「書体を変える」「下線を付ける」「斜体を使う」といった方法は、文字を目立たせるために使われますが、「3つ以上の方法を併用しないほうがいい」ということも、同時に覚えておきましょう。下は具体的な例です。装飾しすぎると、全体のまとまりもなくなりますし、なんといっても読みにくくなってしまい、それでは本末転倒です。

文字は歪めない!

シンプルではっきりとした書体を使ったとしても、文字を横に伸ばしたり、縦に伸ばしたりして、文字の縦横比を変えると、読みにくくなり、読み間違いをしやすくなります。下の例であれば、文字を歪めていない一番上と一番下の行が明らかに読みやすいです。




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